理論編のところでバイク選びの考え方を詳しく説明しました。しかし、ある程度バイクの知識もないと何を選ぶべきか決めることはできません。
そこで、ここでは知識編として
- 基本的な用語
- この記事執筆時の業界のトレンド
と中心に、知っておいたほうが良い内容をまとめました。
フレームの基礎知識
フレームはバイク選びの要となります。パイプを数本組み合わせただけのシンプルな構造ですが、すこしでも軽く早く快適に走ることができるように様々な工夫がされています。それが分かるようになるとバイク選びもやりやすくなると覆います。ここではそんなフレームの違いが分かるように細かい部分を説明していきます。
フレーム素材
フレームの素材はそのバイクの性能を決定づける重要なポイントの一つで、予算にも大きく影響してきます。現在主流の4つのフレーム素材を紹介します。
カーボンフレーム
今もっともメジャーなバイクの素材です。カーボンというのはCFRP(炭素繊維強化樹脂)のことで、金属と比較して
- 比強度が高い(軽くて強い)
- 振動吸収性が良い
- 自由な形状に成形できる
- 繊維方向や積層数を調整することで剛性(硬さ)を自由に変えられる
というまさに自転車に理想的な素材です。予算に問題がなければフルカーボンが一番オススメです。
使う炭素繊維は弾性係数の違い(硬さ、延びにくさを表す)によってグレードがあり、弾性係数が高い=硬いカーボンの方が高価です。カタログに「高弾性カーボン使用」とか「ハイモジュラスカーボン使用」と書いてあるものがそれで、上級グレードのフレームに使われます。
高弾性のほうが軽くて硬いフレームが作れるのでパワーロスが少なく速く走れますが、体への負担も大きくなります。初心者やバイクが得意でない人、バイク後のランが苦手な人なら低弾性グレードのカーボンの方がよい場合もあります。
アルミフレーム
現在はエントリーレベルのバイクに多い素材です。アルミは柔らかい金属というイメージがあると思いますが、今どきは「硬い」バイクが多いです。全てアルミで作るとガチガチで振動吸収性が悪いのでフロントフォークとシートステイをカーボンにして(カーボンバックと呼びます)振動吸収性を上げたモデルがオススメです。
エアロ形状にすると重量が増える・硬くなりすぎるなど問題があるのでスタンダードな形状のフレームがほとんどです。ロードバイクを選ぶなら、コストパフォーマンスも高く良い選択肢です。
クロモリフレーム
クロモリとは強度や靱性を高めるためにクロームやモリブデンを混ぜた鉄のことです。バイク用の素材としてはもっとも歴史が長く、重量面ではどうしても重くなりますがフレームは適度なしなり・バネ感があり心地よく乗ることができます。重い代わりに細くても強度・剛性が出せることから細身のフレームになります。エアロ形状は重くなりすぎるのでありません。
フルオーダーで作る場合はクロモリという選択肢も一般的ですが、市販車ではクロモリフレームのラインナップは少なく特にこだわりがなければオススメしません。トライアスロンでは海水を多く浴びる可能性が高く錆びも心配ですしね。
チタンフレーム
鉄よりも軽く強い金属で腐食にも強く、しなやかな乗り味といわれます。スチールと同じく細身のフレームが多いですが、カーボンが全盛になる前は軽い特性を生かしてチタンのTTバイクも存在しました。
もともと加工が難しく販売しているメーカーはパナソニックやライトスピードなどかなり限られており、TTモデルもありません。価格も高いのでチタンという素材に思い入れがなければカーボンを選んだ方がベターでしょう。
ジオメトリの見方・考え方
下の図は代表的なジオメトリで、シートチューブ長とトップチューブ長以外にもいろいろあります。
バイクの特性にジオメトリが与える影響は無視できませんが、かといってジオメトリだけで全てが決まるわけでもありません。なのでバイク選びでジオメトリの意味を完全に理解する必要はないのですが、それぞれの数字が大きい・小さいでどういう違いがあるか知っておくと、「どっちにしよう?」と悩んだときに決める目安の一つにはなると思います。
また、ブランドやモデル毎の見比べると、どういうコンセプトで作られているのかが何となくわかるようになるので、知っておいて損はないでしょう。
特性など | 大きいと? | 小さいと? | |
---|---|---|---|
トレール | ハンドリングに影響。ヘッドアングルとオフセットで決まる。ロードでは小さくTTバイクでは大きい傾向 | 直進安定性が良い | 曲がりやすい |
ヘッドアングル | フロントフォークの傾き。大きいとハンドルを切ったときの上下動が増えハンドルが重くなる。TTバイクやツーリング向けロードでは大きいことが多い | トレールが大きくなる | トレールが小さくなる |
オフセット | フロントフォークの軸と前輪軸までの距離。ハンドリングの他に振動吸収性などに影響。 フレームはそのままでもオフセットの違うフロントフォークに変えることでトレールが変わりハンドリングを変えることができる。 |
トレールが小さくなる。振動吸収性がよくなる | トレールが大きくなる。振動吸収が悪くなる |
BB下がり | クランク軸と車輪の軸の高さ方向の距離で、自転車の重心の高さが決まる。大きいとコーナーや不整地でクランクが地面に当たりやすくなる。 | 低重心で安定性が増す | 高重心で運動性がよい |
フロントセンター | BBから前輪軸までの距離。ハンドリングにはトレールも影響するので右の分類はあくまで目安 | 直進安定性がよい | 曲がりやすい |
リアセンター | BBから後輪軸までの距離。後三角の剛性と関係し、乗り心地や加速感に影響する。TTバイクでは短いことが多い。 | 乗り心地がよくなる、安定性が増す | 加速感やダイレクト感が大きくなる。 |
ホイールベース | 前後の車軸の距離。TTバイクは長めが多い。ロードはレース向けは短くなる傾向がある。 | 安定性が上がる・乗り心地がよくなる | 運動性が上がる |
シートアングル | 前乗り向きかどうかが決まる。TTバイクは大きく74°以上が多い。ロードバイクは72°前後と小さめ。 | 前乗り向き | 後乗り向き |
リーチ | BBからヘッドチューブまでの水平距離。ハンドルの遠さに関係する。遠すぎる場合は調整が困難。 | 上半身が延びる(背中が延びる) | 上半身が詰まる(背中が丸まる) |
スタック | BBからヘッドチューブの上端までの距離。カタログに記載が無い場合もあるが、ハンドルの高さを決める重要な数値。TTバイクはスタックが小さいモデルが多い。 | 上半身の前傾が浅くなる | 上半身の前傾が深くなる |
フレームの細かなポイント
スローピングとホリゾンタル
トップチューブの角度が水平のフレームをホリゾンタル、斜めになっているフレームをスローピングと呼びます。昔はホリゾンタルばかりでしたが、
- 前三角の剛性を上げやすい
- 軽量化しやすい
- 小さいフレームサイズでも設計しやすい
などの理由から最近はスローピングのフレームも多数あります。特に身長が低い人はスローピングの方がフィッティングしやすいです。
ただし、TTバイクでは小さいサイズ以外はホリゾンタルがほとんどです。恐らくトップチューブの空気抵抗を少しでも下げるためだと思います。
パイプの太さと乗り心地
一般的にパイプは同じ重さなら「肉厚が分厚くて径が小さいより、肉厚が薄くて径が大きい方が変形しにくい」という性質があります。ですので、軽量で硬いフレームを作るために大径薄肉パイプを使うことが現在の主流になっています。
パイプの太さとバイクの性能の関係は大雑把に書くと次の表のようになります。
特性 | 太いパイプ | 細いパイプ |
---|---|---|
振動吸収性 | 悪い(乗り心地悪い) | 良い(乗り心地良い) |
剛性 | 良い(ロスが少ない) | 悪い(ロスが多い) |
ただし、素材がカーボンの場合は繊維の積層方向・積層数で調整できるので見た目のイメージと違う場合もあります。またどの場所のパイプかによっても変わってくるので、この表はあくまで目安だと思って下さい。
パイプ形状と空気抵抗
TTバイクなどエアロ効果を重視したバイクは空気抵抗を減らすために飛行機の翼のように縦に潰れた流線型になっています。
下の図は円形と流線型で空気抵抗が同じになるように大きさを調節したものです。
驚くかも知れませんが、豆粒みたいな円形と大きな流線型がほぼ同じ空気抵抗になります。同じ大きさで比較すると円形の方が12倍空気抵抗が大きいことになります。TTバイクがエアロ形状にこだわる理由が分かりますね。
ただし、実際のTTバイクのフレームの形状はここまで理想的な流線型ではないので数倍程度の差だと思います。さらにいうと走行中の空気抵抗にもっとも大きく影響するのはライダーの姿勢です。人間の方が自転車の何倍も前面投影面積が大きいですからね。なので、フレーム単体のエアロ効果より適切なDHポジションを作れるサイズかどうかの方がずっと重要になります。
またエアロ形状のバイクは縦方向が硬くなり快適性が落ちる傾向があり重量も重くなります。空気抵抗は速度の2乗に比例するので速く走る人ほどエアロ形状の恩恵は強くなりますが、レース中の平均速度が30km/hに届かない人ならエアロ形状にこだわるメリットはありません。
ブレーキシステム
今のロードバイクのブレーキシステムはリムを挟むキャリパーブレーキと車のようなディスクブレーキの2種類があります。
ディスクブレーキは非常によく効きますが、ロードバイク用は歴史が浅いため対応したフレームやホイールが少なく値段も高価です。何かトラブルがあってホイールを借りたいときにも困るので、今の段階ではキャリパーブレーキにしておくのが無難です。ブレーキを動かす方法もワイヤーと油圧がありますが、油圧を使えるのは非常に限られた高級モデルのみです。
ブレーキ位置は一般的にはフロントフォークの前とシートステイの後です。市販のブレーキパーツはここに取り付けることを前提に設計されています。
一方、TTバイクではブレーキの空気抵抗も小さくしたいということで、フロントフォークの後側やBBの後にブレーキをセットしていることがよくあります。
このレイアウトの場合、特にリアブレーキに関してはメンテナンス性が悪かったり、オリジナルのブレーキパーツを使用して結果的に効きが悪いことがよくあります。このようなブレーキレイアウトのバイクを購入するときは実際に乗っている人の評価をよく調べたほうが無難です。
一般的なブレーキレイアウトのTTバイクも多数あるので、扱いやすさを優先するならそちらを選んだ方が失敗は少ないです。
リアエンドの形状
リアエンドというのは後輪を嵌める部分の形状で、大抵はストレートドロップエンドか正爪エンドのどちらかです。
ロードバイクはほぼ100%ストレートドロップエンドなので気にする必要はありませんが、TTバイクの場合は正爪エンドのモデルも結構あります。これが非常に後輪が外しにくいです。必ずチェーンに触らないとホイールが外せないので手が汚れてしまい、練習中のパンク修理などでは困りものです。ストレートドロップエンドのバイクを選ぶならその点は覚悟しておきましょう。私もTTバイクにしてエンドが変わってからホイール交換が毎回面倒くさくなりました。
シートポスト形状
シートポストはサドルを取り付けるパーツです。詳しくはロードバイクのTT化で書きますが、トライアスロンでも使えるロードバイクを選ぶ場合は、シートポストの仕様をよく確認してください。
- 丸パイプでないオリジナル形状またはインテグラルシートポスト
- シートアングルを切り替えられない
という2点を満たすバイクは選んではいけません。DHバーを付けたポジションが作れないので何となく乗りにくい自転車になってしまいます。
インテグラルシートポストというのはシートチューブが長く延びてシートポストも兼ねるタイプのバイクです。最大のメリットは軽量化ですが、不要部分は切断して使うので調整幅が狭い、輪行するときに収納が大変など実用上のデメリットが大きいです。特にポジションが大きく変わる可能性のある初心者の方はやめましょう。ポジションの固まったベテラン向けです。
ハンドル周りの構造
ハンドル周りは空気抵抗の削減と快適なポジションを作るために各社が創意工夫している部分です。上の写真のように飛行機みたいな形状はカッコ良いですが、DHバーの幅や角度などを細かく調整できません。
上位グレードのバイクは、このような専用パーツを使っているモデルが多いです。基本的にフレームサイズが合っていれば適正なポジションになるように調整可能ですが、あともう少しという微調整ができず痒いところに手が届かないこともよくあります。
一方で下位グレードのモデルは普通のロードバイクと同じ汎用品が使えるので交換や微調整がやりやすいです。
右(スマホだと下)の写真のようにかなり思いきったポジションにすることもできます(小柄な人だとこうしないと適度な前傾が作れない場合があります)
経験者でポジションも決まっている、身長も平均以上なら専用パーツでもOKですが、初心者の方や身長が低い方は汎用品を使ったモデルを選んでおくと、色々試せるのでオススメです。空気抵抗の削減より自分に合ったポジションを作れるかどうかのほうが優先度は上ですからね。
ホイールサイズ(26インチ or 27インチ)
トライアスロンで使われるホイールサイズは26インチと27インチの2種類あり、性能面でどちらが良いかというのは昔から議論されてきました。
しかし、ホイールやタイヤの入手しやすさ、周囲との互換性など実用面で考えると27インチが圧倒的に有利です。26インチ対応フレームをラインナップしているメーカーも少ないので身長が極端に低くなければ迷わず27インチです。
身長が160cm以下ぐらいからは、26インチの方がフレーム設計もポジションも無理がないので検討の余地がでてきます。とはいえパーツを工夫すれば大抵は27インチでも何とかなるので、互換性を考えると27インチを選んだ方がハッピーになれる確率は高いです。小柄な方はショップの人とよく相談してみてください。
パーツの基礎知識
自転車のパーツとは
自転車でパーツというとフレームとホイール以外のものを意味します。ハンドルやらサドル、変速機、ブレーキ、ペダルなどですね。パーツにもピンからキリまであり、最上位グレードと下位グレードで価格が倍以上違う場合もあります。
例えば同じ値段のバイクでも、一方は上位グレードのパーツ、もう一方は下位グレードのパーツで組まれている場合があります。それはフレームに値段をかけているか、パーツに値段をかけているかの違いと考えてよいです。パーツは後から交換可能ですし大きく性能がちがうわけでもありません。どちらか一方を選ぶならフレームにお金がかかっている方をオススメします。
また、パーツの中で最も高額なのは変速・駆動系システム(コンポーネントと呼ばれる)です。それに比べてハンドルやサドルは安価なので気軽に交換ができます。バイクを購入するときはコンポーネントさえチェックしておけばよいでしょう。
コンポーネントメーカー
コンポーネントとは変速機・クランクやチェーンなどの駆動系、それとブレーキを一つのシステムとしてまとめたものです。
今のロードバイクのコンポーネントメーカーは日本のシマノ、イタリアのカンパニョーロ、アメリカのSRAMの3社のみで、メーカーごとに特徴はいろいろありますが性能的に圧倒的な違いはありません。どれもレースで使うのに十分な性能があります。
シェアはシマノとカンパニョーロの2社で事実上独占しており、特にトライアスロンではシマノの使用率が圧倒的です。完成車の多くはシマノだと考えてよいでしょう。
コンポーネントの性能とグレードの関係
コンポーネントはグレードごとにモデル名がついています。シマノだとトップグレードから順に次のようになっています。
- DURA-ACE(デュラエース)[セット定価約20万円~35万円] 11速
- ULTEGRA(アルテグラ)[セット定価約9万円~20万円] 11速
- 105(いちまるご)[セット定価約6万円] 11速
- TIAGRA(ティアグラ)[セット定価約5万円] 10速
- SORA(ソラ)[セット定価約4.5万円] 9速
価格は2016年版です。DURA-ACEとULTEGRAに価格幅があるのは電動変速モデルがあるためです。
一方、カンパニョーロは
- SuperRecord(スーパーレコード)[セット定価約40万円-55万円]
- Record(レコード)[セット定価約32万円-45万円]
- Chorus(コーラス)[セット定価約22万円-35万円]
- Athena(アテナ)[セット定価約17万円]
- Potenza(ポテンサ)[セット定価約10万円]
となります。こちらも2016年版の価格で、価格幅があるものは電動変速モデルがあります。
グレードの差は変速性能・耐久性・重量といった部分です。例えばデュラエースと105を比べると確かに変速の滑らかさやブレーキの効きに差を感じます。長期間使った場合の耐久性も差が出てくるでしょう。しかし実用上は105でも全く問題ありませんし、ティアグラでも十分使えます。予算が許せばデュラエースですが、そうでない場合は、105以上を目安にすればまず大丈夫です。
完成車の場合、ミックスコンポというものがあります。これは価格を少しでも安くするために例えば105とTIAGRAを混ぜて使うといったものです。カタログに 105/TIAGRAと書かれていたらミックスコンポです。これ自体は別に悪いことはないですし性能が大幅に落ちるわけでもありませんが、後から「えっ」とならないように気をつけましょう。
トライアスロンバイクのシフトレバー事情
今のロードバイクのシフトレバー(ギヤを変えるレバー)はブレーキレバーと一体となったものが主流です。ハンドルから手を離さずに変速できるので初心者でも簡単に扱うことができます。シマノのデュアルコントロールレバーが先駆けですが今はどのメーカーも同じようなシステムを搭載しています。
ただしこれはドロップハンドルで使うことを前提に設計されており、TTバイクでよく使うブルホーンバーにはワイヤーの取り回しの関係で取り付けにくいです。
さらにTTバイクではDHバーを持って走ることを優先するので、DHバー先端につけるバーエンドコントロールバー(バーコンと呼ばれる)を使うことが一般的です。
バーコンは写真のようにシンプルな構造なので値段も安いのですが、問題は普段の練習ではとても使いにくいということです。
公道での練習では安全のためにDHバーよりもブルホーンバーを持つことが圧倒的に多くなります。そうするとシフトチェンジで毎回ハンドルから手を離してDHバーの先端にあるバーコンの手を伸ばさなければなりません。
どんなに慣れてもこの動作は面倒くさいですし、とっさに変速したいとき(そういう状況ではハンドルをもっていることが多い)にもワンテンポ遅れてしまいます。
なので、初心者の人には下の写真のようなドロップハンドル+デュアルコントロールレバーを強く勧めます。
もちろんDHバーを使っているときはシフトチェンジのたびにデュアルコントロールレバーに手を伸ばす必要があります。しかしDHバーを持って走っている時は巡航状態がほとんどなので慌てることなく落ち着いてシフトチェンジできます。
残念ながら完成車のTTバイクは基本的にバーコン+ブルホーンとなっています。こういう面でも初心者や自転車に苦手意識がある人はまずはドロップハンドルのロードバイにすることがオススメです。シフトチェンジが楽にできるかどうかはバイクに楽しく乗れるかどうかのポイントの一つとも言えますからね。
電動変速システムはおすすめ
2010年にシマノがDi2という電動変速システムを発表しました。バッテリを積みスイッチひとつで変速できます。最初はデュラエースのみで高額でしたが、今ではアルテグラでも発売され手が届きやすくなってきています。
TTバイクを選ぶ場合、予算が許すなら電動にしましょう。電動だとDHバーとハンドルの2箇所に変速スイッチを取り付けることができるので、上で書いたブルホーンハンドル+バーコンのデメリットが解消されるからです。間違いなく快適になります。初心者の人にこそお勧めの装備です。
デメリットとしてはバッテリーが切れたら動かなくなる、故障したらどうしようもなくなる、高価といった点が挙げられますがそれ以上にメリットがあるシステムです。
ホイールの考え方
ママチャリの場合、ホイールは壊れない限り交換しないと思います。
しかし、ロードバイクなどサイクルスポーツの世界ではホイールは走行性能に大きな影響を与えるので、状況に合わせて交換するのが普通です。値段も5,000円ぐらいから50万ぐらいまで幅があり、重量や剛性、空気抵抗などによってさまざまな種類があります。一人で何本もホイールをもつことは珍しくありません。
ホイールの使い分けの基本は練習用とレース用に分けることで、
- 練習→安いホイール
- レース→高額の決戦ホイール
となります。決戦ホイールはコースに合わせて変えることもよくあります。例えば平地中心なら空気抵抗が少ないディスクホイール、登り中心のコースならリムの細い軽量ホイールといった具合ですね。
練習用ホイールは前後セットで15,000円ぐらいからあります。決戦ホイールは安いものでも前後セットで10万円以上、中には50万円以上するものもあります。バイク並みの金額に驚くかも知れませんが、ホイールが一番差を感じやすいパーツで費用対効果は高いです。
低価格の完成車に付属しているホイールは練習用に分類される安いホイールなので、別途決戦ホイールを購入することになります。一方で高額の完成車は決戦ホイールとして使えるものが付属することが多いです。もし1台目にそういうバイクを買ったら、別途練習用ホイールも買うことをオススメします。ホイールは乗れば乗るほど傷むものなので、決戦ホイールは温存しておいた方がよいからです。
ここまで読んで
「バイクに追加してホイールにまでお金がかかるの!?」
と不安になった方もいるかもしれませんが、実際には練習用ホイールでレースに出ても全く問題ないので安心してください。周りの選手よりも機材的に不利になるだけです。
まずは完成車に付いてきたホイールで練習もレースもこなし、もう少しステップアップしたいなと感じたら決戦ホイールを購入すればよいです。私も最初の頃はそうでした。
ロードバイクとTTバイクの本当の違い
理論編でも書きましたが、ドラフティングがOKかどうかで求められる性能が大きく変わります。性能の違いをロードバイクを基準に大雑把にまとめると下の表のようになります。
平坦 | 登り | 下り | コーナリング | 直進安定性 | 振動吸収 | メンテナンス性 | 空気抵抗 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
ロードバイク | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | △〜〇 | △〜〇 | 〇 | △〜〇 |
TTバイク | ◎ | △ | 〇〜△ | △ | ◎ | △ | △ | ◎ |
この表はあくまで目安です。特にロードバイクはモデルごとに得意な部分の差が大きいことが多いです。TTバイクの方は平坦路を速く走ることに特化したモデルしかないと考えてよいです。
このあたりの違いを頭に入れて、まずは外観の違いから見ていきましょう。
TTバイクとロードバイクの違い(外観)
まず、TTバイクでは角のように突き出たDHバーとブルホーンバーが特徴的ですね。これを使うと空気抵抗が少ないポジションを作ることができますが、デメリットとして運動性は落ちます。ただし、ハンドル周りは簡単に交換できるのでロードバイクでもTTバイクと同じ形にすることができます。ですのでハンドル周りの形は本質的な違いではありません。
次にフレームに目を移すとロードバイクとTTバイクではパイプ形状がかなり違います。TTバイクは空気抵抗を減らすため偏平なパイプ形状で、見た目もカッコイイですが、重量の増加や振動吸収性の悪化、といったデメリットもあります。
TTバイクとロードバイクの違い(ジオメトリ・性能)
見た目の違いとは別に、もう一つジオメトリ(スケルトン)というフレーム各部の寸法に大きな違いがあります。詳しくは後で説明しますが、スケルトンの違いでバイクの特性やポジションが大きく変わります。とても大雑把ですがスケルトンの違いで次の表のような差がでてきます。
性能 | ポジション | |
---|---|---|
ロードバイクのスケルトン | 運動性重視 | 後乗り(DHバーなしが前提) |
TTバイクのスケルトン | 直進安定性重視 | 前乗り(DHバーありが前提) |
前乗り・後乗りというのは、ここではサドルの前の方に乗るか後の方に乗るかの違いと考えておいてください(厳密には違うのですが話すと長くなるので別の機会に)。次の写真が一般的なロードバイクのポジションでサドルの後に座っているのがわると思います。
次の写真は前乗りです。サドルの前の方にちょんと乗っているだけということがわかると思います。TTバイクではこのような前乗り(前重心)でDHバーを握った状態で走ることを想定して設計されています。
大事なポイントはスケルトンによる特性の違いを後から変えることは難しいということです。
最近はエアロロードといってTTバイクっぽい扁平なパイプを使ったロードバイクも発売されていますが、スケルトンはロードバイクなので特性もTTバイクとは違ってきます。上の写真のような前乗りポジションを作れない場合もあるので注意が必要です。
ロードバイクとTTバイクの違いが分かったところで次にどういう人にお勧めかを考えてみましょう。
ロードバイクがオススメな人
ロードバイクは歴史が長く、あらゆる状況に対応できる汎用性があります。
普段の公道での練習では信号があり車もいます。登りもあれば下りもあり、荒れた路面も珍しくありません。パンクもするでしょう。そのような状況ではロードバイクの扱いやすさ、高い運動性、メンテナンス性が大きなメリットになります。
つまり「自転車に安全で楽しく乗る」という面ではTTバイクよりロードバイクの方がベターです。
レースに出るという面でみても、ロードバイクならロードレースとトライアスロンのどちらにも参加できますが、TTバイクではロードレースに参加できません。またトライアスロンでも日本選手権やエリートの大会ではロードレースのように集団走行するため、求められる性能はロードバイクとほぼ同じになります。
まとめると次のような人は迷わずロードバイクをオススメします。
- ロードレースも含めたスポーツとして自転車を楽しみたい人
- 自転車に乗ることに苦手意識がある人
- 日本選手権やエリートを目指したい人
TTバイクがオススメな人
TTバイクは平坦で真っ直ぐな道をできるだけ速く走ることに特化しており、特性に合ったコースでは最高の性能を発揮しますが、そうでない状況ではデメリットが目立ってきます。安定性重視のハンドリングはコーナが多いコースでは曲がりにくいですし、重量が重いので登りは不利です。ブレーキの効きが悪いモデルもよくあります。
正直なところ、公道を練習で走る場合はロードバイクより走りにくいと感じる場面が多くなります。また、肝心のレースでもコーナーやアップダウンが多いコース(日本の大会ではそいうコースも多い)ではTTバイクのメリットが生かせません。
もちろんこういったデメリットもバイクのスキルがあれば十分カバーできますし、ロングのような距離が長い大会ではTTバイクのメリットが生かせるコースが多いです。
そういった点を踏まえると、次のような人はTTバイクもよい選択肢だと思います。
- 自転車に乗るのが得意
- トライアスロンに出ること以外は考えない
- ミドル〜ロングに出たい
- 2台目
- とにかくカッコイイバイクが欲しい(笑)
ロードバイクをTTバイク化する方法と注意点
さきほど、それぞれにオススメな人を書きましたが、どっちもどっちという方もいると思います。そういう方にはロードバイクをオススメします。というのも、ロードバイクはパーツの工夫次第でTTバイクに近づけることが可能だからです。逆は難しいです。
ロードバイクをTTバイク化するというのは、DHバーを生かせる前乗りポジションを作れるようにするということです。そのために一番重要なのがサドルの位置で、下の写真のように“前乗り用シートポスト”に交換することで対応できます。
シートポストの形状が丸でなくフレーム専用品の場合、市販の前乗りシートポストに交換できません。ただし、前乗り・後乗りを切り替えられる構造になっていれば対応できます。例えば下の写真のバイクは76°と74°という印があるどちらかを選ぶことでサドルの前後位置を大きく変えることができます。
トライアスロンで使うロードバイクを選ぶ場合、後々DHバーを使うことも考えてシートポストの形状にだけは十分に注意してください。
サドル位置が変更できれば、あとはハンドル関係の部品を変更すればサイズがよほど外れていない限りDHバーを生かせるポジションを作ることができます。ただし、直進安定性やハンドリングはロードバイクのままになります。これが良いか悪いかはコース次第ですが、日本のレースの場合はTTバイク化したロードバイクが相性の良いコースも多いように感じます。
バイクブランドを知ろう
最後に、実際にどんなバイクメーカがあるのかをご紹介します。ここではロングディスタンスのトライアスロンで最高峰のレースとされるアイアンマンハワイで使用率が高いメーカーを中心に紹介します。「これいいな」と思うものがあれば、カタログスペック、値段をチェックしてみてください。
サーベロ
カナダのバイクメーカー。アイアンマンハワイでのシェアは毎年2位以下に倍以上の差を付けて1位になっています。ロングのトライアスロンをやるなら一度は検討してみてもよいかもしれません。2016年に発表されたP5Xはデザインも値段もトンデモバイクですがP2はコストパフォーマンスが高いモデルです。
公式サイト(英語)
日本代理店(東商会)
CEEPO
日本発のトライアスロンバイク専門メーカーです。トライアスロン向けによく考えて作られており国内のでの使用率は高いです。アイアンマンオフィシャルバイクに選ばれたこともあります。
公式サイト
トレック
アメリカにある世界最大の自転車メーカー。1990年代からOCLVカーボンを使ったカーボンバイクを作っていました。TTバイクとしてはSpeedConceptが発表時に話題になりました。2016年アイアンマンハワイシェア2位。
公式サイト
スペシャライズド
アメリカのメーカー。自転車だけでなくシューズやサドルなどアクセサリーにも力を入れてます。フィッティングサービスのBGフィットも有名。TTバイクのshivの登場でトライアスロン界で一気に有名になりました。2016年アイアンマンハワイシェア3位。
公式サイト
フェルト
「フレームの魔術師」というスゴイキャッチコピーを持つジム・フェルトが作ったドイツ・アメリカに拠点をおくメーカー。昔からトライアスロンバイクを作っており定評があります。2016年アイアンマンハワイシェア4位。
公式サイト
ARGON18
カナダのバイクメーカです。2006年にトライアスロンで3つの世界タイトルを獲得したこともあり、海外では人気が高いです。2016年アイアンマンハワイシェア5位。
スコット
スキー用品のメーカとしても有名なスイスのメーカー。世界最軽量のフレームを開発したりしている。2016年アイアンマンハワイシェア6位。
公式サイト
BMC
スイスのメーカー。TTバイクのtimemachine TT01の活躍で有名になりました。 2016年アイアンマンハワイシェア7位。
公式サイト
キャノンデール
アメリカの自転車メーカーで1990年代はアルミバイクに定評があり、トライアスロンでもシェアが大きかったですが最近はそうでもありません。2017年は国内ではSliceの完成車1種類のみですがお値段は手頃です。2016年アイアンマンハワイシェア9位。
公式サイト
ケストレル
昔からカーボンバイク一筋のアメリカのメーカーです。シートチューブのないフレームでトライアスロンでは存在感があり、1990年代はアイアンマンハワイでシェア1位になったこともあります。
公式サイト
ロードバイクを選びたいという人へ
トライアスロン向けのバイクは最近アメリカ・カナダなど北米に勢いがあります。ですので、ここで紹介したブランドも北米のメーカが多めです。
しかし、ロードバイクを選びたいという場合は、ヨーロッパのブランドが豊富で人気・実績があります。代表的なブランドとしてピナレロ、ビアンキ、オルベア、コルナゴ、カレラ、タイムなどがあります。まずはロードバイクからと考えている方はヨーロッパブランドンもチェックしてお気に入りを探してみてください。
まとめ
この記事ではバイクの基礎知識をギュッと圧縮して詰め込みました。
「こんなにたくさん知ってないと選べないの〜」
と思った方もいらっしゃるかも知れませんが、バイクは高額な機材です。一度買ったらそう簡単には買い換えられません。十分に知識をつけて選んで損はないと思いますよ。
この記事でご紹介したバイクの知識と理論編で紹介した考え方を組みあわせれば、トライアスロンのバイク選びで大きく外すことはないと思います。
しっかり理解して、是非お気に入りのバイクを選んでくださいね。
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